18回生・小倉 明彦

 昨年、私は武蔵高校山岳部O.B会会員の皆様に、O.B会メール網を通じてオオムラサキの鑑賞会開催をお知らせはしたものの、二つの心配が絶えず付きまとい、私の小さな胸を苦しめました。その一つは、果たして何人の方がお見えになるだろうかということ、二つ目はこちらの都合に合わせてオオムラサキが出てきてくれるだろうかということでした。

 8月2日当日、定刻前までに、JR青梅線青梅駅南口に向後さん御夫妻と並木さんがお見えになりました。まだお見えになる方々がいるかもしれないので、下り電車をもう一台待ってみました。電車がホームに到着しましても、降車する人がまばらでした。もう待つだけ無駄ということで、オオムラサキがしきりに出没するという青梅丘陵ハイキングコースに向けて青梅駅を勇ましく出発しました。

 照り返しのきついアスファルトの道を登り詰め、ハイキングコース入口につきましたら、制服姿の屈強なガードマンが、蟻一匹だってここを通過させないという風情で立っていました。恐る恐るハイキングコースに入れるか聞いてみました。すると返事は、「本日開催される納涼花火大会準備作業のため、警備上の都合でハイキングコースには誰も入れません。」とつれないお言葉。こちらだって、はるばる遠方から来て頂いた大切な人を御案内しているんだ、そこを何とかしてくれとゴネてみたかったのですが、長いものにはすぐ巻かれ、権威ある人にはからっきし弱い、悲しい性分で、すぐに退散いたしました。

 そこで青梅駅から勝手知ったる裏道や路地をすり抜けて、枝垂桜で有名な梅岩寺さんの境内に入り、そこを抜け、ハイキングコース近くにある秋葉神社へ登る山道をただひたすらに駆け抜けました。
 途中、上から降りてくるハイカー達とすれ違いましたら、ハイキングコースの永山公園方向は、すでに厳重に閉鎖されているとのこと。コース合流点から西に向かえば、オオムラサキが樹液を吸いに来るコナラがある場所へ行くことができますから、ノープロブレム。 登りに拍車がかかりました。

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 納涼花火大会準備作業のお陰で、貴重な時間をだいぶ浪費させられましたが、何とかオオムラサキが出没するコナラの木にたどり着くことができました。後は、お目当てが現れるのを待つだけです。
 向後先輩が、後日O.B会メール網で皆さんにお知らせくださったように、ルリタテハ、オオムラサキ、アカボシコマダラ等の美しい姫君を観察することができました。おっと蝶は、姫よりも若のほうが派手で、きれいなんだ。ただし、お目当てのオスのオオムラサキは、えさ場をめぐるオオスズメバチとの烈しい諍いがあったのか、そのきれいな翅に損傷が目立っていました。なにはともあれ、番いのオオムラサキほかを観察できて、御案内した甲斐があり私もホッと安心できました。

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 東京都内で、おそらく野生のオオムラサキを観察できるポイントは、ここだけでしょう。食草となるエノキの木があり、落ち葉が堆積していて幼生が越冬できる環境は、そう滅多な場所にはありませんでしょうから。

 蝶の観察を終えて山を降り「山城屋」と言う料理屋で渇いた喉を潤していましたら、納涼花火大会が始まりました。夜空に咲いた大輪の花火を見ましたら、ハイキング道入り口ですげなく追い返された恨み・辛みを、すっかり忘れることができました。