16回生・坂本 貴男

昨年の秋、日高のコイカクシュサツナイ岳、通称コイカクに登ってきました。日高は帯広畜産大学に在学中、大学の寮の窓から毎日眺め、四季を通じて登っていた懐かしい山です。

高齢化による体力の低下を感じ始めてからは、体力が未だ残っているときに是非また日高に行っておきたいと思っていました。日高の山中には山小屋が無く、稜線に取りつくまでは沢の渡渉を繰り返すため、テント・食糧・水を担いでもらえる頑強な若者とパーティを組んでいく必要があって、若い仲間と一緒に行ける機会ができるのを待っていました。

平成27年9月20日、半世紀以上昔に厳冬期の東大雪ウペペサンケ山で遭難して亡くなった3人の先輩たちの恐らく最後となる追悼登山にOBが集まることになり、その後に60歳台のOB7人が集まって、日高に行くことになりました。若いOBに参加してもらうことができなかったので、日高の中でも沢登りのアプローチが短いコイカクを登ることになりました。コイカクは、日高山脈の中部に位置して標高1721m、札内川の支流コイカクシュサツナイ川の上流にある山で、この山だけを登るよりヤオロマップ岳、1839峰、ペテガリ岳やカムイエクウチカウシ岳への縦走起点として登られています。

9月21日、前日のウペペサンケ山追悼登山で背丈を越すハイマツの薮漕ぎで脛や腿に多数の傷を作っていました。帯広でテントや食料などを調達してから2台の車に分乗して出発、途中で中札内村の道の駅で昼飯を取り、日高横断道路を通ってコイカク登山の入り口近くにある無人・無料の札内ヒュッテに16時頃に着きました。日高横断道路は、私が卒業してから15年後の1984年に着工しましたが、工事が難航して事業費が増大、また自然破壊の反対運動も活発化したために2003年に工事は中止となりました。道路のほとんどは既に車が通れる程度の道が出来ているようですが、札内ヒュッテから上流は一般車両が通ることができません。

 この日は祭日で、札内ヒュッテ横の駐車場には10台程の車が止まっていましたが、ほとんど釣り人達の車のようで、ヒュッテの利用者は居ませんでした。夕飯はヒュッテの前の広場でジンギスカン鍋を囲み、登頂前の盛大な祝宴を挙げてから、久しぶりに寝袋に包まって寝ました。夜トイレにヒュッテから出て夜空を見ると満点の星空でした。

 9月22日、雲一つない青空。沢支度を整えて7時にヒュッテを出発、ヒュッテの直ぐ横のトンネルをくぐり、次のトンネルの手前からコイカクシュサツナイ川に下りました。川は広くて陽が当たり、川の水量が少なかったので沢くつでジャブジャブ徒渉しながら気持ちの良い沢歩きができました。

 途中、ダムや2ケ所の函を巻いて2時間半ほどで夏尾根の取り付き上二股に到着。先に登っている人達がデポした沢くつが何個か周りの木にぶら下がっていて、我々もここで沢くつを木にぶら下げて登山靴に履き替え、水を補給。夏尾根に取りついてからは急登が続き、明瞭な踏み跡があるが所々で笹のトンネルみたいに両側から背丈ほどある笹が覆いかぶさってきます。標高が上がって笹が減り、


 樹林帯で歩きやすくなるが急な夏尾根を喘ぎ喘ぎひたすら登ります。この日はコイカクピークまで行って幕営する予定でしたが、時間的にも体力的にも難しくなってきたので、標高1,305m地点の尾根上に幕営して、ここからカムエクピークをアタックすることに変更しました。

 既に先に登っていた人達のテントが三張り張られていましたが、斜面の草地を均して何とか我々の天幕を二張り張り、荷物を置いて空身でコイカクピークに向かう。ここからしばらく登っていくとダケカンバも消えうせて展望のよい尾根歩きとなり、岩稜帯の痩せ尾根を登りきると主稜線に出て、待望のコイカク手前の夏尾根ノ頭(1,719m)に到着。最高の展望で、目の前に広がる日高の山並みを見ると、まさに日高の真ん中といった感じ。目の前にヤオロマップと1839峰に続く稜線、遠くにペテガリの姿も見える。十勝側には、ピラトミ山、札内岳、十勝幌尻岳、そして1823峰の後ろにカムイエクウチカウシなどの山々が連なっているのが見えました。ただ時期的に少し遅かったので、もう1か月早ければ見れたであろうミヤマリンドウやウメバチソウなどの高山植物を見ることができなくて残念でした。コイカクピークは目の前に見えていましたが、時間もなかったので無理しないでテント地に引き返しました。

 9月23日、本来なら昨晩はコイカクピークにテントを張って、山頂から日高の山並みや満点の星空を仰ぎ見たかったのですが、夏尾根での幕営になりました。そのため、この日の朝も快晴でしたが、ここからの眺めは登ってきた沢と右側の尾根にピラトコミ山が見えただけでした。朝食を済ませテントを撤収して7時に下山開始。昨日登ってきた急坂を笹や小枝を掴みながら駆け下りて8時過ぎに上二股に着き、デポしておいた沢くつに履き替えて札内ヒュッテに10時半に戻りました。着替えを済ませて札内ヒュッテから10分ほど下ったところにある日高山脈山岳センターに行って昼食。ここには、日高山脈に関する展示や案内コーナー、食堂があって、日高山脈の生い立ちなどが模型で分かりやすく解説されていて、センターの入り口には札内川の清流を集めて10メートルの落差で豪快に流れ落ちるピョウタンの滝があります。ここからは更別村の公共温泉に立ち寄って、のんびりと山の疲れを癒して帯広へ帰りました。

 大学を卒業してから日高には平成15年夏にヌビナイ川を遡行してソエマツ岳に登ったことがありましたが、札内川に入ったのは大学卒業以来でした。あの頃は、道路も未だ整備されてなく、札内村でバスを降りてからコイカク登山口まで一日かけて歩きました。大学に入学して初めて日高を登った時、カムエクからの下山途中で札内川の渡渉中に流されてしまい、運よく数百メーター下流の砂溜まりで止まって命拾いしたこと、又私が流されたその前日は北大の捜索隊と出会っていたことを思い出しました。その年の3月に北大パーティが札内川十の沢付近で大規模な雪崩に遭って6名全員が死亡していました。私は、今も元気でいられて、今回懐かしい日高に再度登ることができて喜んでいます。
4号_H01